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國頭英夫代表理事が新著『誰も考えようとしなかった癌の医療経済』を出版しました

 SATOMI臨床研究プロジェクト(SCP)代表理事である國頭英夫が、中外医学社から新著『誰も考えようとしなかった癌の医療経済』を出版しました。

中外医学社 | 書籍詳細 (chugaiigaku.jp)

これは医療者向けポータルサイト「エムスリー」に連載していた記事を加筆修正し、京都大学大学院医学研究科臨床統計学講座の田中司朗特定教授の監修を受けて書籍化したものです。臨床医の視点に立った医療経済の本は極めてユニークです。


代表理事國頭英夫が1月15日の朝日新聞朝刊『ひと欄』で紹介されました

(ひと)國頭英夫さん 過剰医療を抑えるためのプロジェクトに乗り出す医師

 画期的な治療薬は医療費の高騰も招く。がん治療ならひとり年間1千万円以上だ。いまは国民皆保険で自己負担額が抑えられているものの、保険の支え手である現役世代の負担はもはや限界に近い。

 「世界に誇る日本の医療制度は氷山に突き進むタイタニック号。豪華な旅を楽しんでいる余裕はない」。10年前そう声をあげ、治療のコストも考えるべきだと訴えたが「医者の考えることではない」と無視された。患者は治療の縮小を恐れ、病院は収益減を嫌がる。そして製薬会社もできるだけ薬を使ってもらいたいからだ。

 効率的な治療方法で医療費を抑える方法はないものか。そう考えて昨年、非営利型一般社団法人SATOMI臨床研究プロジェクトを同志と立ち上げた。治療成績を落とさずに薬の投与量や治療期間を見直すための臨床試験、治療後の患者の追跡調査に取り組む。

 「医療をバラ色の未来にするためではなく暗黒の未来にしないための試みです」。製薬企業や政府からの支援は期待できない。研究資金は一般から寄付を募る。

 がん患者への告知をそれがタブーだったころから始め、医療の腐敗を描く小説「白い巨塔」にちなむ筆名・里見清一で週刊誌に辛口の医療・社会時評を連載する名物医師だ。小説が原作のドラマ監修も2回担当。次は自ら主役として医療費という巨塔に立ち向かう。

(文・原真人 写真・本人提供)

[出典:朝日新聞 2022年1月15日朝刊]


「論座」で当プロジェクトがとりあげられました

論座
「論座」は朝日新聞社が運営する言論サイトです

過剰医療という「白い巨塔」に挑む医師の闘い

このままでは日本の医療、皆保険制度は崩壊しかねない

原真人 朝日新聞 編集委員

 医療の進歩が次々と新薬を生み出している。画期的な効能がある新薬はたいがい高価だ。それでも日本では国民皆保険制度によって誰でも貧富の差なく、どんな新薬でもコストを気にせずに利用できる。それはありがたいことなのだが、一方で医療現場では安心して薬の「無駄遣い」もできるようになり、著しく医療費の高騰を招いている。

 たとえば、がん治療なら薬代だけで1人あたり年間1千万円以上の医療費がかかる。この国では「人の命は地球より重い」という論理が当たり前のように語られ、費用対効果の概念なしに税金や保険料が湯水のごとく医療につぎ込まれてきた。だが国家財政はすでに火の車だ。医療保険も、支え手である現役世代の負担がますます重くなっており、もはや限界に近い。このままで日本の医療は持ちこたえられるのだろうか。

 医療制度の破綻をなんとか食い止めるには、まず過剰医療をできるだけ削っていく必要がある――。ある医師がそんな思いで医療費抑制プロジェクトに乗り出した。

医療界のタブーに挑む名物医師

 國頭英夫(くにとう・ひでお)氏(60)。日本赤十字社医療センターの化学療法科部長という肩書をもつ。その現役医師が今年、「非営利型一般社団法人SATOMI臨床研究プロジェクト」を立ち上げ、医療費を抑えるための検証や調査に乗り出した。

日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫さん

 國頭氏には別の「顔」もある。コラムニストだ。医療の腐敗を描いた山崎豊子の小説『白い巨塔』の登場人物にちなんだペンネーム「里見清一」で、『週刊新潮』にコラム「医の中の蛙」を連載している。

 毎週、コラムでは医療をテーマにした社会時評を書く。みずからが身を置く医療の世界には不合理や不条理、矛盾が山ほどある。それらに対して深い洞察力をもって冷徹かつ論理的な目を向ける。時に批判もする。そんな物言う医師はめったにいない。医療界では異色の人だ。

 だからこの人に医療界がどう見えるのかを聴いてみたいと思うのだろう。『白い巨塔』を原作としたテレビドラマが平成や令和の時代にリメイクされるたびに、國頭氏は監修を頼まれている。

 今回、國頭氏がプロジェクトでめざすのは、治療成績を落とさずに、薬の投与量や治療期間を見直せないかを臨床試験で探ろうという試みだ。治療後の患者の追跡調査にも取り組み、治療が患者にとって長い目で意味があるものだったかどうかも調べる。そういうデータの積み重ねによって効率的な治療方法を見つけていこうというのである。地味で地道な作業となるが、最終的に医療費の抑制、削減につなげていくには、急がば回れということだろう。

 「世界に誇る日本の医療制度は、いわば氷山に突き進むタイタニック号です。もうこれまでのように国民皆保険制度のもとで豪華な旅を楽しんでいる余裕はありません」

 10年前、がん治療薬などの薬価の急上昇と急速に進む超高齢化のスピードに危機感を覚えた國頭氏は、そう声をあげた。治療に際しては「コスト」のことも考えるべきだという至極まっとうなことを、医者仲間らに訴えた。だが、仲間内の反応は最初の5年は「無視」だった。その後の5年間は「うるさい」とさえ言われるようになった。

 忠告してくれる同僚や先輩たちもいたが、彼らの言い分は「どうせ今の保険医療システムは崩壊するのだから、防ごうなんてことを考えるな」「解決策は政治が考えればいいこと、医者が考えることではない」というものだった。

 「医療費削減」は医療関係者たちに歓迎されないテーマだ。なぜなら患者は治療が縮小されるのではないかと恐れるし、病院は収益減につながることを嫌がる。製薬会社にとっては、できるだけ薬を使ってもらいたいのに薬剤費の削減努力などとんでもないことだからだ。

 ならば……と、SATOMI臨床研究プロジェクトを立ち上げ、実際に自分たちで臨床研究に取り組んでみることにしたという。

2025年問題で医療費はさらに膨らむ

 日本の財政は社会保障の膨張のために悪化し続けている。国民への社会保障給付費の総額はいまや130兆円規模だ。そのなかで最も大きな比率を占めるのが年金(46%)だが、次に大きな比率で、かつ伸びが著しいのが医療(32%)だ。

 下図「医療費の推移」のグラフをご覧いただきたい。医療費はずっと右肩上がりで伸び続けてきた。2020年度は予算ベースで46.8兆円。ここにはコロナ対策で医療関係に投じた補正予算(4兆円余り)は含まれていないから、コロナ禍の結果、実際はもっと膨らんでいる。2040年にはこれが70兆円近くまで増えると見込まれている。国内総生産(GDP)の伸びをはるかに上回る増加ペースであり、医療費の負担は国民にとって今よりさらに重くなる。

 下図の円グラフを見ていただくとわかるように、医療費の財源はざっと5割が保険料、4割が国と地方の公費負担(税金)で調達されている。残り1割が患者負担だ。つまり全額が国民の負担となる。国庫負担のうちかなりの部分が借金財政でまかなわれているから、もっと正確に説明するなら、医療は「現在」の国民負担と「将来」の国民負担によって支えられていることになる。負担を将来世代に先送りしているのだ。

危機原因は「超高齢化」と「医学の進歩」

 医療費が急増し続ける最大の理由は「超高齢化」である。75歳以上の後期高齢者になると、病気にかかって病院で治療を受ける頻度が格段に増えるからだ。65~74歳の前期高齢者になると、1人当たり国民医療費は現役世代の4倍ほどに増えて約55万円となるが、後期高齢者になるとこれが一段と増えて、平均約91万円となる。

 しかも後期高齢者は全体の数そのものもこれから急速に増えていく。2016年に1691万人だった人口が、団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年になると490万人も増え、2180万人になる。国民の5人強に1人が後期高齢者になるということだ。

 そして、医療費急増のもう一つの理由が、医学の進歩によって画期的な治療薬が開発され、その費用が膨らんでいることだ。たとえば、がん治療では薬代だけでも全額自己負担だとしたら年間1000万円以上がかかる。

 薬代が高くなるのは製薬会社の開発コストがかさんでいるためだ。一つの新薬を販売するまでの開発コストは平均3000億円と言われる。そのコストを回収するために薬の値段をどうしても高く設定せざるをえなくなる。

 代表例が、がん治療薬オプジーボである。がん治療で療養していた森喜朗・元首相がこれを使って健康を回復し、東京五輪組織委員会の会長職に復帰したことでも有名になった。この薬は一部の患者には劇的に効果を発揮する。問題はきわめて高額だということだ。当初は1人当たり年間3500万円ほどかかっていた。現在は4分の1ほどまで下がった。

 ただ、國頭氏によると、オプジーボなどの薬は、出始めのころは単剤で使われることがほとんどだったが、その後、併用療法の方が効果が高くかつ確実であることがわかり、現在は他の薬剤(抗癌剤・免疫薬・血管新生阻害剤など)との併用が主流になりつつある。だからオプジーボだけのコストは低くなっても、他の高額薬との併用になっているために「治療」全体としてのコストはさほど下がっていないという。

 製薬会社がこうした新薬開発に安心して取り組めるのも、効果が期待される薬はどれほど値段が高くても医師や患者が使いたがるだろうと踏んでいるからだろう。日本には国民皆保険制度があるし、一定以上の高額医療を保険でカバーする高額療養費制度というのもある。患者は自己負担額が低く抑えられているから、効果が少しでも期待できる薬を使いたがるし、病院も収益的にはそのほうが有り難い。製薬会社は当然、単価が高い薬を頻繁に使ってくれれば業績が上がるから大歓迎だ。医療にかかわる関係者たちには、治療薬の高騰を抑えたいというインセンティブ(動機づけ)が働きにくいのである。

 本来なら政府がそれを適正に抑えなければいけないのだが、患者も、医師も、製薬会社も歓迎している政策をひっくり返そうなどということを、政治家も官僚も手をつけにくいのだ。かくして治療薬価格の高騰と、医療費の膨張は止まらない。

米国式か、それともギリシャ式か

 日本の国民皆保険制度は世界に冠たる、すぐれたセーフティーネットであろう。誰でも必要になれば、貧富の差に関係なく、数千万円のコストがかかる高度医療でも受けられるのだ。ただし、それがすばらしい制度だと言えるのは今後も持続可能であるならば、という前提つきだ。

 日本の医療の現状がいかに恵まれたものかを理解するには、米国の医療と比較してみるのがいいかもしれない。米国は日本と異なり、公的な皆保険制度はない。いい医療を受けるには自分で民間の保険に入る必要がある。だが米国でももちろん新薬など医療費が高騰しており、その影響で民間保険料も高騰している。

 國頭氏によると、2015年時点のデータでは、米国の通常の勤め人の収入の半分が保険料と医療の自己負担で持っていかれてしまっているという。たとえば家族の1人が肺がんになると、5年間で13家庭に1家庭が破産しているそうだ。2028年には収入の半分どころか、全部をつぎこまなければ保険料と医療の自己負担をまかなえなくなるとも言われている。

 こうした米国の現状をみると、日本の医療制度がいかに公平で、そしてぜいたくなものなのかがわかる。ただし、現状は医療費の高騰に歯止めがかかっておらず、その財源は政府の借金が相当あてられている。増税や保険料の大幅アップには抵抗が強いことを考えると、医療費財源を安定的に確保できるかの見通しはかなり危うい。というより、何のあてもない。お先真っ暗と言ってもいい。

 となると、日本の先行きはギリシャのように国家財政の破綻によって強制的に医療の質を落とすか、大増税やとてつもない保険料値上げによって、どうにか今のサービス水準を維持していくかしか選択肢はないのだろうか。そこで國頭氏のプロジェクトがもう一つの選択肢を提供してくれる。医療費削減の道だ。

ー「論座」より。以下ページは、WEBRONZAからご購読下さい。

https://webronza.asahi.com/business/articles/2022010400008.html


m3.comに代表理事國頭のインタビューが掲載されました

m3.com

効果を落とさずに「薬」を減らす研究をサポート-國頭英夫・日本赤十字社医療センター化学療法科部長に聞く◆Vol.1

インタビュー 2021年8月28日 (土) 聞き手・まとめ:高橋直純(m3.com編集部)、橋本佳子(m3.com編集長)

 「里見清一」のペンネームでも活躍する日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫氏が、“Value”を重視した臨床研究を支援する非営利型一般社団法人「SATOMI臨床研究プロジェクト」を設立した。國頭氏は高額化する薬剤費の保険医療制度および国家財政への影響を指摘し続けている。國頭氏は「後ろ向きで地味な、しかし今の日本に最も必要な研究である費用対効果も含めた真に“価値(Value)”ある臨床研究を後押しするための寄付を集めたい」と呼びかけている (2021年7月22日にインタビュー、全2回の連載)。


 2014年に免疫チェックポイント阻害薬オプジーボ(一般名:ニボルマブ)が保険収載される際に、國頭氏は高額薬剤の登場による保険医療制度および国家財政への影響を指摘。試算の内容は、「標準体重の肺がん患者に1年間投与すると薬剤費は3500万円で、有効例および無効例での至適投与期間が不明の状況で、適応のある患者5万人全員に投与されると仮定すると年間1兆7500億円に達する」というもので、財務省の財政制度等審議会などでも説明し、大きな議論になった。一連の議論は里見清一名義で『医学の勝利が国家を滅ぼす』(新潮新書)として書籍にもまとめられている。

―新しく作る団体ではどのような活動をするのでしょうか。

 まずは、ひと言で言うと、真に「価値(Value)」を持つ治療開発を目指す臨床研究を支援することです。もっと、平たく言えば、効果を落とさずに「薬」を減らす研究のサポートです。

 “Value”の意味ですが、これまでの薬の価値は「効果/副作用」の評価でしたが、これからはコストも計算に入れて考えるべきです。つまりvalue=「効果/(副作用+コスト)」として捉えるべきで、米国のレオナルド・ザルツ博士が提唱されました。アメリカでは公的保険が日本に比べて整備されていないため、高額薬剤が個人への影響として問題になっており、ザルツ博士らが発起人になって、”Value”を重視した治療開発のための「Value in cancer care consortium(vi3c)」という学術団体も立ち上がりました。

 Valueを重視した研究の例としては、アビラテロンという前立腺がんに対する経口剤を、内服と食事のタイミングを調整することにより4分の1の量で同等の効果を得たという研究や、ダサチニブという慢性骨髄性白血病の薬は量を半分にしても効果が保てたという報告があります。私たちもエルロチニブという肺がんに対する経口剤を、高齢者などでは3分の1にしても通常量と同じ効果が得られたという研究結果を出しました。このほか、大腸がんや乳がんの術後治療のコース数を減らしても効果は大きく減殺されず、副作用の軽減とコストの削減につながるという研究もあります。

 薬剤の組み合わせや投与量を増やして、さらに大きな効果を出そうとする研究は多く、製薬会社も支援をしてくれます。それらもそれなりに重要な研究なのでしょうが、研究計画を見ると必要以上に「気前よく」薬を使った治療になっていることも多いように思います。血管新生阻害剤のように、高額でごくわずかな効果しかないものが「統計学的に有意な差を示した」と大々的に発表され、喧伝され、大きな利益をもたらすのです。一方で私たちが注目し、やろうとしている「なるべく少量、短期間で同等の効果が出るように」という研究計画だと、企業側からすると売り上げが落ちるので、資金サポートを得ることは難しいです。

 私が専門とする肺がんの領域では、国立がん研究センターを中心とする研究グループで免疫チェックポイント阻害剤が有効であった患者さんに対して、1年間で投与を終了するか、さらに続けるかという臨床試験を行っています。しかし、「どんどん成績を良くする」という目的ではないため、患者さんや担当医の理解が広まらず、予定の患者さんの半分も集まっておらず、AMED(日本医療研究開発機構)からの公的研究費も「進捗が思わしくない」として打ち切られたそうです。海外の研究者からは「アカデミアでないとできない研究だ」と高い評価を受けているようですが、日本では「コストを気にする」という風土が、研究者にも当局にもあまりないのがネックになっています。

――サポートする研究としては「追跡調査」も挙げていますね。

 その他、地味ですが、非常に大事な研究として「治った患者さんがどうなるか」という追跡調査があります。小児がんに関するそうした研究報告の一つに対しては、私が編集長を務める学術誌(Japanese Journal of Clinical Oncology)が2019年に論文奨励賞を授与しましたが、こうした研究は製薬会社からのサポートも受けづらく、資金的には厳しい状況です。

 私自身も、高齢の肺がんの患者1000人の手術半年後のADLを調べるという研究を考えましたが、AMEDに応募しても2年連続で落ちました。がん患者の生存率のデータはあっても、実際にどのようなに状況にあるのか、日常生活で動けているか、あるいは極端な場合寝たきりになっているのか、調査したデータは皆無です。追跡調査は、これからどんどん命を延ばしていく、というものではありません。しかし私たちの先輩がここまで進歩させてくれた医療を、できるだけコストをかけずに維持していくための第一歩になるでしょう。ただ登録のシステムを組むだけでもかなりの費用がかかり、その捻出は非常に厳しい状況です。

 団体としては研究サポートだけでなく、こうした考えた方を広める啓発活動もやっていきます。設立に当たっては、小説家の林真理子さんにも賛同の声を寄せていただきました。

――どのような仕組みで研究をサポートするのでしょうか。

 当面は研究テーマを公募するのではなく、私たちで意義ある研究を見つけて支援して行くつもりです。寄付集めは、1年間で1000万円、3年間で2000万円を一応の目標としています。アメリカvi3cでは研究の企画立案からやっているようですが、一試験当たり百万ドル単位での費用がかかるとのことです。とてもそれほどの、公募をして一から研究をスタートさせられるような額は集まらないでしょうから、今走っている研究を、途中で挫折しないようにサポートしていきます。

 一例をあげると、先ほど説明した「肺がん患者の追跡調査」では、国立がん研究センターとその中にあるJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)に業務委託の形で提供されて、研究に使用していく予定です。JCCG(日本小児がん研究グループ)との提携も考えています。

[出典 https://www.m3.com/news/open/iryoishin/956054?category=interview

Vol.2は以下よりぜひご一読ください。

増大する医療費「我々はみなタイタニック号に乗っている」◆Vol.2


医学界新聞に代表理事國頭のインタビューが掲載されました

医学界新聞

高額医療問題に対する臨床研究をサポート

――高額医療問題について國頭先生にインタビューを行うのは,2016年3月以来2度目です。これまでの活動を振り返って,状況の変化をどうとらえていますか。

國頭 私ががん治療薬などの薬価上昇に危機感を覚え問題提起を始めたのが2011年頃ですから,10年が経ちました。当初は「医療経済は国の問題。薬のコストについて医療者は考える必要がない」といった風潮があり,学会で議論を仕向けても煙たがられたものです。風向きが変わったのは,免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(オプジーボR)をはじめとする高額な新薬の上市が相次いだことでしょう。

――16年4月の財政制度審議会での発言を機に社会的な関心が高まり,結果的にオプジーボの薬価は改定時期を待たずに臨時措置として引き下げられました。

國頭 「よく効き,かつ高額な」新薬の登場は医学の進歩であって,止めることができません。しかも適応となるのが稀少疾患でなく百万人単位の患者を持つ病気になれば,財政を逼迫するのは必然です。このままでは国民皆保険制度がもたないと皆気付いている。しかし「ではどうしたらいいのか」がわからない。既に諦めているように見えます。

――近年は医療費適正化を図る施策が打ち出されています。それでも,諦めているように見えますか。

國頭 まず前提として,日本の医療費は40兆円超。その費用構造を見るとおよそ5割を医師等の人件費が占め,医薬品は2割程度です。ただコロナ禍で問題になっているように,医療人材が不足する現状において人件費を削るのは困難です。となると,医薬品コストの抑制がターゲットにならざるを得ない状況です。

――抜本的な対策は難しいのですね。しかし「取れるところから取る」だけだと,今度は製薬企業の開発意欲が削がれます。

國頭 それも指摘されています。本来ならば,「薬の効果」に主眼を置いて薬価を決めるべきですが,「新しく出た」だけの二番煎じに高い値段がつき,有効な標準薬は正当な評価を受けていない,という問題もあるようです。

――2019年度には医薬品の費用対効果評価制度の本格運用も始まりました。

國頭 日本の費用対効果評価制度は,既に保険適用された医薬品のうち「特定の医薬品に」ターゲットを定めて,費用対効果評価の結果を「価格調整に」用いる制度です。効果としては限定的でしょう。そもそも,費用対効果分析は高度な学問で,適切な評価ができる専門家も不足しています。適正な薬価を決めるのは実は難しいことなのです。

――高額医療問題を解消する術は他にあるのでしょうか。

國頭 「適正薬価」のほか,「適正使用」を図るという手段が考えられます。つまり,有効例に対して必要最小限の使用に抑える。無効例に対しては使用を控える,または打ち切る。こうした原則を徹底すれば無駄は省けます。

 実際に,一部の抗がん剤は薬事承認された投与量よりも少ない量で有効性が保たれることが指摘されていて,投与回数や1回投与量の減少などで投与方法の最適化を図る研究が海外で進んでいます2,3)。私たちも,3分の1の量のエルロチニブや半分以下の量のアファチニブで良好な効果を得た研究を報告しました4, 5)。

――薬の投与量を減らしても治療効果が維持され,さらには副作用が減りコストも削減できるなら良いこと尽くめですね。

國頭 もちろん簡単ではありません。こうした研究には製薬企業からの支援は望めないし,患者側の協力も得にくい。一方で,特に米国などは公的医療保険制度が脆弱で,個人がコストの影響をダイレクトに被るので危機感が強いのでしょう。こういった研究を推進し,がん治療へのアクセスや持続性を向上させることを目的として,value in cancer care consortium(vi3c)という非営利団体が創設されています。

 さらにvi3cに携わる医師らは今年,near-equivalenceという臨床研究の新しいパラダイムを提案しました6)。標準治療よりも費用対効果の高い治療法を確立させるには,本来ならば非劣性無作為比較試験が必要とされます。しかし大きなサンプルサイズになるので手間がかかるし,臨床試験のデザインとしても難しい。そこで,「ほぼ同等であること(near-equivalence)」を裏付けるために,臨床薬物動態のデータ分析などを組み合わせることによって非劣性試験を代用するという提案です。

――國頭先生もこのたび,「研究資金が集まりくいけれど重要な臨床研究」をサポートする非営利団体を設立されました。

國頭 SATOMI臨床研究プロジェクトでは,真に「価値(value)」を持つ治療開発をめざす臨床研究を支援していきます。ここで言うvalueは,前述のvi3cの発起人の一人であるレオナルド・ザルツ(Leonard B. Saltz)先生らが提唱した概念です。

 従来,薬の価値は効果と副作用のバランスで決まりました。式に表すと「効果/副作用」。「あの薬は効くけれど副作用が強い」「それほど効かないけれど副作用もあまりない」などと評価しますよね。今後はコストも考慮して,value(薬の価値)=「効果/(副作用+コスト)」としてとらえるべきであるという趣旨です。そうなると,「それほど効かないけれど副作用もあまりない,だがコストは高い」薬は,「valueが低い」という評価になります。

――プロジェクトはどのように運営されるのでしょう。

國頭 対象となるのは,先ほど紹介した「薬剤の投与量/投与期間を減らす研究」のほか,治癒した患者の追跡調査を想定しています。例えば小児がん領域は長期の追跡調査が重要となりますが,製薬企業からのサポートが得にくいため,研究グループが資金難に陥っています。こういった臨床研究に対して,資金面も含めたサポートを行います。SATOMI臨床研究プロジェクトにおいて寄付金を募り,必要経費を差し引いた後,JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)やJCCG(日本小児がん研究グループ)などに業務委託の上,研究費として支援する予定です(註)。

――長年指摘を続けてきた高額医療問題に対し,実際に解決を図るのですね。

國頭 もちろん,これだけで事態が好転するとは考えていません。全体の医療費のわずかな額を節約する程度。焼け石に水でしょう。でもだからと言って「沈みゆく船」をこのまま見ているだけでいいのかと強く思います。できることはやらないと,次の世代の人に顔向けができない。

 2012年にザルトラップRという薬が大腸癌に対して米国で承認された時,メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターが「既存薬と効果が同等で値段が倍もする新薬を当院では採用しない」と公表して大騒ぎになりました。その経緯をザルツ先生らがニューヨーク・タイムズ紙(2012年10月14日付)に寄稿しています。その中で「2013年の米国におけるザルトラップRの予想売上は約1億5千万ドルで医療費全体の0.005%相当。この薬の使用を止めても,そのまた一部を節約するに過ぎない」と述べたあと,“But it is a step in the right direction――one of many we need to take”と結んでいます。

――SATOMI臨床研究プロジェクトも,「正しい方向への第一歩である」と。

國頭 私も自分にできることをやる。うまくいかない可能性もありますが,失敗したら老後の蓄えが多少減り,周囲から「ほら見たことか」と嘲笑されるでしょうけれど,命を取られるわけではなし,そのくらいは我慢します。10年も高額医療の問題を指摘してきた責任がありますから,自分なりのけじめをつけるつもりです。

(了)

[出典 2021.10.04 週刊医学界新聞(通常号):第3439号より]

全文は下記URLよりぜひご一読ください。

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2021/3439_02