- SATOMI CLINICAL RESEARCH PROJECT -
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プロジェクトについて

私たちがサポートする “Value”を重視した研究とは

この社団法人の活動内容としては、まず、資金面を含めて、臨床研究のサポートをします。臨床研究は、意外にお金がかかるものなのです。データを収集し、解析する際の人件費が主ですが、事務経費もバカになりません。また、本格的に患者登録のシステムを作るとなると相当の費用が必要です。

 私たちが考える臨床研究は、金に糸目をつけずに「よりよい医療」を追い求めるものではなく、できるだけコストをかけず、かつ患者さんの健康状態を維持し、医療システム全体の持続可能性をもたらすことを目的としています。

一言で言うと真に 「価値(value)」 をもつ治療開発を目指しているのです。

 ここでこの“value”という言葉についての解説が必要かもしれません。従来、薬の「価値」は効果と副作用のバランスで決まり、あの薬は良く効くけれども副作用が強いとか、こっちの薬は大して効かないのだけれども副作用があまりないからいい、というような評価を行いました。つまりValue(価値)= 効果/ 副作用です。

 しかしこれからは、コストも考えに入れて、たとえばこっちの薬は大して効かないのだけれども副作用があまりない、だけれどもものすごく高額である、という場合にはやはり評価は低くならざるを得ない。つまり

Value(価値)= 効果/(副作用+ コスト)として考えるのです。

これはニューヨークのレオナルド・ザルツ博士が提唱されました。

 さて、臨床研究の研究費は、大きく二つの方法で賄われます。一つは製薬企業の支援を受けることですが、これは当然のことながら企業の利益が優先され、「できるだけコストをかけず」なんていうコンセプトの研究に、企業は見向きもしません。

 もう一つは、公的研究費つまり「政府のお金」です。しかしこちらはお役所の常として使途に強い制限がかかり、また予算に制限があります。さらに政府の方針として、「イノベーションにつながる」もの優先の傾向があり、経済成長につながらないテーマでは、獲得は困難です。

 そこで、私たちが考える、もしくは私たちの目的に沿う研究の資金を、私たちの志に賛同される方々の寄付で賄えないものかと考えました。

 実際のところ、アメリカでは、癌に対する薬物の投与量を減らす研究がされ始めています。癌に対する「新薬」の多くは、製薬企業が治験を行い承認され使用されている投与量よりも、実はずっと少ない量で有効性が保たれるのではないかと指摘されています。 

 その際に、治療効果が向上することは理論的にも望めないのですが、同等の効果を維持し、副作用を減らし、コストを削減することができるのであれば医療全体へのメリットは大きいはずです。そういう研究を推進する目的で、ザルツ博士らが発起人となってValue in cancer care consortium(Vi3C)という学術団体も立ち上がりました。

 “Value”を重視した研究の例としては、アビラテロンという前立腺癌に対する経口剤が1/4 の量で同等の効果を得たという研究や、ダサチニブという慢性骨髄性白血病の薬は量を半分にしても効果が保てたという報告があります。私たちも、エルロチニブという肺癌に対する経口剤を、高齢者などでは量を1/3にしても通常量と同等の効果が得られたという研究結果を出しております。

 また、抗癌剤は、進行した癌に対する治療の他にも、手術で取り切った癌の再発予防のために使われます。大腸癌の術後再発予防のために抗癌剤を6 ヶ月投与していた標準治療の代わりに3 ヶ月で済ませても大して効果は変わらず、副作用(しびれ)とコストが軽減するという研究や、HER2 陽性という性格をもつ乳癌では、術後再発予防としてそれを抑えるトラスツズマブという薬を1 年間使う代わりに2 ヶ月で済ませてもいいのではないか、という研究も行われました。

 私が専門とする肺癌の領域では、患者さんの術後成績を、高額で有名となったオプジーボなど免疫チェックポイント阻害剤を使って、さらに改善しようという研究を、複数の製薬企業がすでに開始しています。それを全否定するつもりはありませんが、研究計画をみると、明らかに必要以上に「気前良く」薬を使った治療になっています。私は、その際に、なるべく少量の薬で、かつ短期間の使用で、同等の効果が出るように、という臨床試験を計画していますが、こういう試みはどこからも資金サポートが得られません。

 国立がん研究センターを中心とする研究グループ(JCOG)では、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤が有効であった患者さんに対して、1年間で投与を終了して経過をみるか、それ以降も続けるかという臨床試験を行っています。これも「どんどん成績を良くする」目的ではないため、患者さんや担当医に理解が広まらず、予定する患者さんの半数も集まっていません。

 当初は公的な研究費のサポートもありましたが、「進捗が思わしくない」という理由で打ち切られたそうです。公的研究費は、研究の重要性以上に、「予定通りの進捗」を重視するのです。

 一般篤志家の寄付により、そういう地道な研究もできるのだということを示すことができれば、今は製薬企業主導の研究に全面的に協力している仲間や同僚の目も、こちらに向けられるのではないか。私はそう考えています。