- SATOMI CLINICAL RESEARCH PROJECT -
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プロジェクトについて

「我が子を喰らう」私たち 迫られる発想の転換

この国民皆保険制度が崩れたら?

 そういう考えたくないことは誰も口に出しません。しかしこのままの赤字経営が続くはずがなく、崩れたら、一気に私たちは最貧国の仲間入りになります。今まで私たちが当たり前のように享受していた近代医療は、私たちの子供や孫にとって、すべて高嶺の花になるでしょう。最近の癌治療は、薬代だけで(全部自己負担となるなら)年間1000万円単位でかかります。「全収入を医療保険に」という米国の人たちと同じ運命になるのです。

 私たちは、発想の転換を迫られています。コストを度外視して命を延ばす「高度化」から、次の世代に引き継げる「持続可能なシステム」の模索へ、医療者や、医学研究者や、患者や、社会全体の意識を変えていかねばなりません。

 今、そういう方向に舵を切らねば、間違いなく、世界に誇る日本の医療制度は、氷山に向かって突き進むタイタニック号のような運命を辿るでしょう。

 私が高額医療の問題を言い出してから10 年ほどになります。最初の5 年は、仲間内からも、ただ無視されていました。最近の5 年は、「うるさい」と言われています。同僚や先輩からの私への「忠告」は、大別して二つあります。

 一つは「我々にはどうしようもない。政策を決める政府の人達の問題だ」というもの。もう一つは、「どうせ現在の保険医療システムは崩壊するのだから、それを防ごうなんてことを考えずに、崩壊した後のことを考えた方が良い」というものです。

 だが、実のところ、日本の保険医療システムは大丈夫だから、と言ってくれる人は皆無です。みんな、我々はタイタニック号に乗っているのだということを、本当は知っているのです。

 私たち自身が氷山に衝突して沈没するのは仕方がないにしても、私たちの子供や、孫を巻き込む権利が、私たちにあるのでしょうか。せめて彼らを救命ボートに乗せないといけない。いま、私たちはその準備をすべきであって、タイタニック号の豪華な船旅を楽しんでいる余裕はないのです。

 スペインの画家ゴヤの、「我が子を喰らうサトゥルヌス」は、世界で一番怖しい絵だと言われています。この原画では、我が子を頭から齧るサトゥルヌスの股間には、勃起したペニスが描かれていたそうです。

 私たちもまた、「我が子を喰らい」ながら、医学の進歩に興奮しているのではないでしょうか。

 そうならないためにはどうしたらいいか、真剣に、そう自問自答しなければいけない時代になってしまったと、私は考えています。

 その具体的な方策として、私は、心ある医師達が行おうとしている、費用対効果も含めた真に「価値(value)ある」臨床研究を後押ししたいのです。

 どうか、このプロジェクトの趣旨をご理解いただき、我々の子孫に暗い未来を残さないための投資として、ご寄付をお願いする次第です。