- SATOMI CLINICAL RESEARCH PROJECT -
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プロジェクトについて

私たちがサポートする 癌が治った後の追跡調査とは

 前述のような、「薬剤の投与量を減らす研究」「薬剤の投与期間を短縮する研究」の他にも、アメリカVi3C は扱っていないようですが、地味だけれども非常に重要な研究があります。

 その一つが、「治った患者さんはその後どうなるか」の調査です。

 小児癌は、かなりのものが「治る」ようになりましたが、子供達はその過程で放射線や抗癌剤などの身体に長期的な影響を与える治療を受けており、それにより発達がどうなるのか、また成人した時に不妊にならないか、さらにはその後、二次癌など他の病気にならないか、が問題になります。

 

 ただこういう研究は、当然のことながら長期間の調査が必要であり、子供達は成長して、進学し、就職し、あちこちに「散らばって」しまうので、患者さんの追跡だけでも大変です。場合によっては周囲に、自分がかつて小児癌だったことを隠しているという人もいることでしょう。

 

 もともと小児癌領域は、JCCG(日本小児がん研究グループ)という団体もあるのですが、ずっと資金難です。理由は簡単で、小児癌は患者数が少なく、また薬剤の投与量も(身体が小さいから)少ないので、製薬企業にはメリットが乏しく、サポートがされないからです。

 通常の研究でさえ困難を伴うのに、長期の追跡調査は非常にハードルが高くなりますが、それでもいくつかの研究報告は日本からもされています。その一つに対して、私が編集長を務める学術誌Japanese Journal of Clinical Oncology は、2019年の論文奨励賞を授与しました。

 私たちは、成人の癌である肺癌でも、同様の調査研究を行おうとしています。肺癌は予後不良の「難治癌」の代表でしたが、私たちが最近まとめた研究では、リンパ節転移のない段階では手術と術後治療で、5年生存率約90%という高い成績が得られました。ただ問題はこの先で、一般的には「手術の後5 年経ったらもう大丈夫、癌は治った」と思われがちですが、5 年以降、生存率はまだ徐々に下がり続けます。

 どうしてか。「治った」と思っていた肺癌が実は治っていなくて、後になって再発してしまった、という場合もあります。他の病気に罹ったり、胃癌や乳癌など別の癌ができてしまう場合もあります。

 さらには、手術や抗癌剤といった、身体に負担がかかる治療の影響が後になってから出てきた、という場合もありそうです。ただ詳細は不明です。

 なぜこういう大事なデータがないのでしょうか。今までは、とにかく目の前の癌という大敵をどうにかしようと、医者も患者さんも必死で、「その後のこと」まで気を配ることができなかったのです。癌が治る時代になってはじめて、そういう「余裕」が生まれました。

 私たちは、肺癌患者さんの長期の経過がどうなっていくのか、それにどういう因子がからむのか、を検討しようと考えています。また一方、高齢の肺癌患者さんは、術後普通の日常生活に戻れるのか、寝ついたり認知症になったりしないのか、の調査も始めています。

 私たちの、「治った肺癌の患者さんは、その後どうなるか、どうすればいいのか」の調査研究は、これからどんどん命を延ばしていく、というよりも、私たちの先輩がここまで進歩させてくれた医療を、できるだけコストをかけずに維持していく、そのための第一歩です。